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事故の事例
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jump!  事故発生年月日
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jump!  事故当時の気象状況
jump!  事故日までの気象状況
jump!  事故に至る経過
jump!  練習内容及びAの行動
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公立高校の生徒がバスケッドボールの
クラブ活動中に熱中症となり
急性心不全により死亡した事故
 事故発生年月
 1988(昭和63)年8月5日
 
 発症者の経歴等
 市立N高校一年生、バスケットボール部員のA(16歳、女性)
中学校時代から、バスケットボールで活躍していた生徒。
昭和63年4月の入学時より親元を離れ、部活の下宿から高校に通っていた。
入学時の健康診断において、何ら異常は認められなかった。
 
 事故発生場所及び状況
 N高校体育館
  
 事故当時の気象状況
   松山 新井浜
日時 天気
概況
気温
湿度
風向
16方位
風速
m/s
雲量
10分比
日射
0.1h
気温
風向
16方位
風速
m/s
日射
0.1h
8/5 14:00
時々


- - - - - - 31.1 W 2 0.5
15:00 28.9 70 WSW 3.0 09 0.8 31.2 WNW 2 0.8
16:00 - - - - - - 30.7 N 2 0.4
17:00 - - - - - - 30.1 NE 2 0.7
18:00 28.2 - NNW 1.5 07 0.1 29.7 NE 2 0.7
19:00 - - - - - - 29.9 NW 2 -
20:00 - - - - - - 28.3 WNW 2 -
最高   33.0 - W 5.0 - - - - - -
最低(小)   24.7 52 - - - - - - - -
 
 事故日までの気象状況
  神戸 松山
  7/30 7/31 8/1 8/2 8/3 8/4 8/4 8/5
天気概況
(06-18時)
曇後晴 快晴 晴時々曇 曇時々晴 曇時々晴 晴一時雨 曇時々雨後晴
気温℃(最高) 30.0 29.5 33.5 34.5 31.3 30.6 32.3 33.0
湿度%(平均) 71 71 64 54 62 73 66 70
  
 事故に至る経過
 発症者Aは、7月30日から8月4日まで、神戸市で開催された
インターハイスクール競技に参加。
4日の同日にいったん自宅に帰り休息後、翌日の5日14時より学校に戻り
部活動に参加。
 練習開始直前の体重測定では異常なし、前夜の睡眠時間は7.5時間
食欲は普通、発熱なし、生理中ではなく、左右のふくらはぎ、
左足首に痛みがあった程度。
格別練習に支障があるとは認められかった。
 事故当日は、新チーム(ニ年生と一年生)で新人戦に向けた練習が開始された。
参加者は一、ニ年生の11名、卒業生5名と、顧問のS教諭(体育大学卒)であり
練習の場所は同校体育館内の板張りコート2面を使用し
内容は、予めS教諭が作成した以下の通りの練習予定に従って行なわれた。
 
 練習計画内容
時刻 時間 内容
14時00分   体重測定、心拍数測定(練習開始直前)
  10分間 ストレッチ
5分間 準備運動
5分間 ランニング
14時30分 10分間 縄跳び、腹筋鍛錬
  10分間 攻撃のための足の使い方
10分間 防御のための足の使い方
15時00分 10分間 休憩(水を補給) 1回目
  30分間 攻撃基本技術の練習 ボールコントロール
20分間 攻撃基本技術の練習 パス・キャッチ
10分間 攻撃基本技術の練習 ドリブル
15分間 攻撃者と防御者の追いかけっこ
16時25分 5分間 休憩(水を補給) 2回目
  15分間 ドリブルシュートの練習
25分間 ボールを持ってカットインの練習
20分間 二人一組でポールを運ぶ練習
17時30分 10分間 休憩(水を補給)
  35分間 インターバルトレーニング(5セット)
18時15分   整理運動
18時45分   自主練習
19時00分   ミーティング
 
 練習内容およびAの行動
時刻 内容
14:00 練習開始。
  防御のための足の使い方の練習中、発汗量が多くなった。
15:00 1回目の休憩に、Aは、少し疲れた様子であったが
水200ccを補給した。同休憩後の練習開始時には
疲労も回復した様子で特に異常は認められなかった。
  攻撃基本技術の練習のパス・キャッチ練習中、やや疲れた様子となる。
  攻撃者と防御者の追いかけっこの練習の終りころ
普段は見られない状態で急に膝を追って床にうずくまり
意識が少しもうろうとし、目は疲れでうつろな状態になっていた。
S教諭は、「しっかりせんか。」と言って、Aを引っ張りあげて立たせた上
両頬を2回ひっぱたいたが、それでもAの意識ははっきりせず
さらにコップ一杯の冷水を頭から浴びせ両頬を叩いたところ
ようやく意識が回復したので、予定より約5分早く
全員を休憩させることとした。
16:10頃 全員休憩。
S教諭は、Aを体育館の涼しい場所に連れて行き
コップ一杯の水とスポーツドリンク300ccを飲ませて休ませ
他の生徒には予定通り、ドリブルシュートの練習をさせた。
途中、顔色が通常より悪いAより数回練習に参加する申し出がされた
 S教諭は十分に回復しないまま練習に参加させるよりも
最後にハードなインターバルトレーニングをさせたほうが
本人に満足感を与えることになると考え
17時50分頃まで、Aの練習再開を許可しなかった。
17:50頃 S教諭は、競技者としての練習に対する満足感を与えさせる目的で
Aを最も厳しい練習であるインターバルトレーニングに
4セット目から参加させた。
Aは、2セット目のゴールに達すると同時に
そのまま前につんのめるようにばたんと倒れこんだ。
この時は一回目に倒れた時よりも更に意識が朦朧とした状態であった。
S教諭は卒業生と共に、直ちに体育館外の水道の蛇口のところに
Aを抱きかかえて連れていき頭から水を浴びせ
スポーツドリンク300ccと梅酒様のドリンク200ccを飲ませた。
Aは少しずつ飲んで、飲み終えた段階でも、
まだ強い疲労感が残っている状態であり
S教諭は、卒業生を付き添わせて
Aを体育館入り口の涼しい場所に寝かせて休ませた。
19:00頃 Aは、ずっと横になって休み、最後のミーティングには参加したが
更衣室へ行くにも同級生に支えられ、帰るにも自転車に乗れないほど
非常に疲労した状態であったため
他の生徒に付き添われてタクシーで帰宅させられた。
19:40頃 下宿に帰宅してすぐに意識を喪失して倒れた
20:20 下宿の管理者が救急車を手配
20:26 救急車が下宿に到着
20:34 S病院に到着、搬入後約10分内に心臓が停止した
22:45 急性心不全のため死亡
 出典
平成6年4月13日 松山地方裁判所西条支部 判決 昭和63年(ワ)第158号
損害賠償請求事件 一部認容、一部棄却 確定
判例タイムズ856号251項
判例地方自治127号47項

日置雅晴(1995) 室内スポーツでも、起こりうる熱中症による死亡事故
臨床スポーツ医学 12(6) 725-727

加藤英俊(1996) 熱中症とスポーツ指導者の責任
仙台大学紀要 27 123-135

阿部ヒロ子(1997) シャボン玉は消えない
あすなろ出版社 1997.5.15発行
 
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